源氏 物語 北山 の 垣間見 現代 語 訳。 源氏物語「若紫・北山の垣間見・若紫との出会い(尼君、髪をかきなでつつ〜)」の現代語訳と解説 / 古文 by 走るメロス

若紫 わかむらさき【源氏物語 第五帖】

源氏 物語 北山 の 垣間見 現代 語 訳

画帖 若紫 土佐派 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 若紫 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 図屏風 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 絵色紙帖 若紫 詞青蓮院尊純 長次郎 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 絵色紙帖 若紫 詞時直 土佐光吉 雀の子を犬君が逃がしつる伏籠のうちに籠めたりつるものをとていと口惜しと思へりこのゐたる大人例の心なしのかかるわざをしてさいなまるるこそいと心づきなけれ ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 若紫 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 若紫 土佐光信 生ひ立たむありかも知らぬ若草を おくらす露ぞ消えむそらなき ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) わかむらさき(若紫) の一巻なり、の后の姪にて、の官の娘に紫の上といふがあり、幼くして母に後れ、北山なる祖母がもとにあり、然るに源氏十七歳の時瘧の病にかゝり、北山の信都の之をよくおとす法力ありと聞きて到りたるに、折からかの紫の上の祀母君も悩あり、加持いのりせんと紫の上件ひく是れへ来り、遂に源氏と初めて相見るなり、時に三月の晦口なり、己にして九月とぃふに、その祖母君果てしかば、源氏は十歳なる紫の上を引き取り二條の院西の第に置かるゝとなり、時に十月となす、その時源氏の歌に 手につみていつしかも見ん紫の 根にかよひける野邊の若草 『画典』三 源氏若紫北山図(残欠) ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第五段 翌日、迎えの人々と共に帰京) 図 若紫 海北友雪 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第五段 翌日、迎えの人々と共に帰京) 五十四帳 若紫 広重 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 源氏香の図 若紫 国貞改豊国 手に摘みていつしかも見む紫の 根にかよひける野辺の若草 ( 第一章 紫上の物語 若紫の君登場 第三段 源氏、若紫の君を発見す) 若紫 第一章 紫上の物語 若紫の君登場、三月から初夏四月までの物語 第一段 三月、加持祈祷のため、北山に出向く 源氏は 瘧病 わらわやみにかかっていた。 いろいろとまじないもし、僧の 加持 かじも受けていたが 効験 ききめがなくて、この病の特徴で発作的にたびたび起こってくるのをある人が、 「北山の 某 なにがしという寺に非常に 上手 じょうずな 修験僧 しゅげんそうがおります、去年の夏この病気がはやりました時など、まじないも 効果 ききめがなく困っていた人がずいぶん救われました。 病気をこじらせますと 癒 なおりにくくなりますから、早くためしてごらんになったらいいでしょう」 こんなことを言って勧めたので、源氏はその山から修験者を自邸へ招こうとした。 「老体になっておりまして、 岩窟 がんくつを一歩出ることもむずかしいのですから」 僧の 返辞 へんじはこんなだった。 「それではしかたがない、そっと 微行 しのびで行ってみよう」 こう言っていた源氏は、親しい 家司 けいし四、五人だけを伴って、夜明けに京を立って出かけたのである。 郊外のやや遠い山である。 これは三月の三十日だった。 京の桜はもう散っていたが、途中の花はまだ盛りで、山路を進んで行くにしたがって 渓々 たにだにをこめた 霞 かすみにも都の霞にない美があった。 窮屈 きゅうくつな境遇の源氏はこうした山歩きの経験がなくて、何事も皆珍しくおもしろく思われた。 修験僧の寺は身にしむような清さがあって、高い峰を負った 巌窟 いわやの中に 聖人 しょうにんははいっていた。 源氏は自身のだれであるかを言わず、服装をはじめ思い切って簡単にして来ているのであるが、迎えた僧は言った。 「あ、もったいない、先日お召しになりました方様でいらっしゃいましょう。 もう私はこの世界のことは考えないものですから、修験の術も忘れておりますのに、どうしてまあわざわざおいでくだすったのでしょう」 驚きながらも 笑 えみを含んで源氏を見ていた。 非常に偉い僧なのである。 源氏を形どった物を作って、 瘧病 わらわやみをそれに移す 祈祷 きとうをした。 加持 かじなどをしている時分にはもう日が高く上っていた。 若紫 第一章 紫上の物語 若紫の君登場、三月から初夏四月までの物語 第三段 源氏、若紫の君を発見す 山の春の日はことに長くてつれづれでもあったから、夕方になって、この山が 淡霞 うすがすみに包まれてしまった時刻に、午前にながめた 小柴垣 こしばがきの所へまで源氏は行って見た。 ほかの従者は寺へ帰して 惟光 これみつだけを供につれて、その山荘をのぞくとこの垣根のすぐ前になっている西向きの座敷に 持仏 じぶつを置いてお勤めをする尼がいた。 簾 すだれを少し上げて、その時に仏前へ花が供えられた。 室の中央の柱に近くすわって、 脇息 きょうそくの上に経巻を置いて、病苦のあるふうでそれを読む尼はただの尼とは見えない。 四十ぐらいで、色は非常に白くて上品に 痩 やせてはいるが 頬 ほおのあたりはふっくりとして、目つきの美しいのとともに、短く切り捨ててある髪の 裾 すそのそろったのが、かえって長い髪よりも 艶 えんなものであるという感じを与えた。 きれいな中年の女房が二人いて、そのほかにこの座敷を出たりはいったりして遊んでいる女の子供が幾人かあった。 その中に 十歳 とおぐらいに見えて、白の上に 淡黄 うすきの柔らかい着物を重ねて向こうから走って来た子は、さっきから何人も見た子供とはいっしょに言うことのできない麗質を備えていた。 将来はどんな美しい人になるだろうと思われるところがあって、肩の 垂 たれ髪の裾が扇をひろげたようにたくさんでゆらゆらとしていた。 顔は泣いたあとのようで、手でこすって赤くなっている。 尼さんの横へ来て立つと、 「どうしたの、たちのことで 憤 おこっているの」 こう言って見上げた顔と少し似たところがあるので、この人の子なのであろうと源氏は思った。 「 雀 すずめの子を 犬君 いぬきが逃がしてしまいましたの、 伏籠 ふせごの中に置いて逃げないようにしてあったのに」 たいへん残念そうである。 そばにいた中年の女が、 「またいつもの 粗相 そそうやさんがそんなことをしてお嬢様にしかられるのですね、困った人ですね。 雀はどちらのほうへ参りました。 だいぶ 馴 なれてきてかわゆうございましたのに、外へ出ては山の鳥に見つかってどんな目にあわされますか」 と言いながら立って行った。 髪のゆらゆらと動く後ろ姿も感じのよい女である。 しょうなごんの 乳母 めのとと他の人が言っているから、この美しい子供の世話役なのであろう。 「あなたはまあいつまでも子供らしくて困った方ね。 私の命がもう 今日 きょう 明日 あすかと思われるのに、それは何とも思わないで、雀のほうが惜しいのだね。 雀を 籠 かごに入れておいたりすることは仏様のお喜びにならないことだと私はいつも言っているのに」 と尼君は言って、また、 「ここへ」 と言うと美しい子は下へすわった。 顔つきが非常にかわいくて、 眉 まゆのほのかに伸びたところ、子供らしく自然に髪が 横撫 よこなでになっている額にも髪の性質にも、すぐれた美がひそんでいると見えた。 大人 おとなになった時を想像してすばらしい佳人の姿も源氏の君は目に描いてみた。 なぜこんなに自分の目がこの子に引き寄せられるのか、それは恋しい ふじつぼの宮によく似ているからであると気がついた 刹那 せつなにも、その人への思慕の涙が熱く 頬 ほおを伝わった。 若紫 第一章 紫上の物語 若紫の君登場、三月から初夏四月までの物語 第四段 若紫の君の素性を聞く 病後の源氏は気分もすぐれなかった。 雨がすこし降り冷ややかな山風が吹いてそのころから滝の音も強くなったように聞かれた。 そしてやや眠そうな 読経 どきょうの声が絶え絶えに響いてくる、こうした山の夜はどんな人にも物悲しく寂しいものであるが、まして源氏はいろいろな思いに悩んでいて、眠ることはできないのであった。 初夜だと言ったが実際はその時刻よりも 更 ふけていた。 奥のほうの室にいる人たちも起きたままでいるのが 気配 けはいで知れていた。 静かにしようと気を配っているらしいが、 数珠 じゅずが 脇息 きょうそくに触れて鳴る音などがして、女の 起居 たちいの 衣摺 きぬずれもほのかになつかしい音に耳へ通ってくる。 貴族的なよい感じである。 源氏はすぐ隣の室でもあったからこの座敷の奥に立ててある二つの 屏風 びょうぶの合わせ目を少し引きあけて、人を呼ぶために扇を鳴らした。 先方は意外に思ったらしいが、無視しているように思わせたくないと思って、一人の女が 膝行 いざり寄って来た。 襖子 からかみから少し遠いところで、 「不思議なこと、聞き違えかしら」 と言うのを聞いて、源氏が、 「仏の導いてくださる道は暗いところもまちがいなく行きうるというのですから」 という声の若々しい品のよさに、奥の女は答えることもできない気はしたが、 「何のお導きでございましょう、こちらでは何もわかっておりませんが」 と言った。 「突然ものを言いかけて、失敬だとお思いになるのはごもっともですが、 初草の若葉の上を見つるより旅寝の 袖 そでも露ぞ 乾 かわかぬ と申し上げてくださいませんか」 「そのようなお言葉を 頂戴 ちょうだいあそばす方がいらっしゃらないことはご存じのようですが、どなたに」 「そう申し上げるわけがあるのだとお思いになってください」 源氏がこう言うので、女房は奥へ行ってそう言った。 まあ 艶 えんな方らしい御挨拶である、 女王 にょおうさんがもう少し大人になっているように、お客様は勘違いをしていられるのではないか、それにしても若草にたとえた言葉がどうして源氏の耳にはいったのであろうと思って、尼君は多少不安な気もするのである。 しかし返歌のおそくなることだけは見苦しいと思って、 「 枕 まくら 結 ゆふ 今宵 こよひばかりの露けさを 深山 みやまの 苔 こけにくらべざらなん とてもかわく間などはございませんのに」 と返辞をさせた。 若紫 第一章 紫上の物語 若紫の君登場、三月から初夏四月までの物語 第五段 翌日、迎えの人々と共に帰京 夜明けの空は十二分に霞んで、山の鳥声がどこで 啼 なくとなしに多く聞こえてきた。 都人 みやこびとには名のわかりにくい木や草の花が多く咲き多く地に散っていた。 こんな深山の 錦 にしきの上へ 鹿 しかが出て来たりするのも珍しいながめで、源氏は病苦からまったく解放されたのである。 聖人は動くことも容易でない老体であったが、源氏のためにの坊へ来て護身の法を行なったりしていた。 嗄々 かれがれな所々が消えるような声で経を読んでいるのが身にしみもし、尊くも思われた。 経は 陀羅尼 だらにである。 京から源氏の迎えの一行が山へ着いて、病気の全快された喜びが述べられ、御所のお使いも来た。 は珍客のためによい菓子を 種々 くさぐさ作らせ、 渓間 たにまへまでも珍しい料理の材料を求めに人を出して 饗応 きょうおうに骨を折った。 「まだ今年じゅうは 山籠 やまごもりのお誓いがしてあって、お帰りの際に京までお送りしたいのができませんから、かえって御訪問が恨めしく思われるかもしれません」 などと言いながらは源氏に酒をすすめた。 「山の風景に十分愛着を感じているのですが、陛下に御心配をおかけ申すのももったいないことですから、またもう一度、この花の咲いているうちに参りましょう、 奥山の松の戸ぼそを 稀 まれに 開 あけてまだ見ぬ花の顔を見るかな と言って泣きながら源氏をながめていた。 聖人は源氏を 護 まもる法のこめられてある 独鈷 どっこを献上した。 それを見てはが くだらの国からお得になった 金剛子 こんごうしの 数珠 じゅずに宝玉の飾りのついたのを、その当時のいかにも日本の物らしくない箱に入れたままで薄物の袋に包んだのを五葉の木の枝につけた物と、 紺瑠璃 こんるりなどの宝石の 壺 つぼへ薬を詰めた幾個かを 藤 ふじや桜の枝につけた物と、山寺のの贈り物らしい物を出した。 源氏は巌窟の聖人をはじめとして、上の寺で経を読んだ僧たちへの布施の品々、料理の詰め合わせなどを京へ取りにやってあったので、それらが届いた時、山の仕事をする下級労働者までが皆相当な贈り物を受けたのである。 若紫 第二章 の物語 夏の密通と妊娠の苦悩物語 第一段 夏四月の短夜の密通事件 の宮が少しお病気におなりになって宮中から自邸へ退出して来ておいでになった。 帝 みかどが日々恋しく 思召 おぼしめす御様子に源氏は同情しながらも、 稀 まれにしかないお 実家 さと住まいの機会をとらえないではまたいつ恋しいお顔が見られるかと夢中になって、それ以来どの恋人の所へも行かず宮中の 宿直所 とのいどころででも、二条の院ででも、昼間は終日物思いに暮らして、 王 おうみょうぶに手引きを迫ることのほかは何もしなかった。 王がどんな方法をとったのか与えられた無理なわずかな 逢瀬 おうせの中にいる時も、幸福が現実の幸福とは思えないで夢としか思われないのが、源氏はみずから残念であった。 宮も過去のある夜の思いがけぬ過失の罪悪感が一生忘れられないもののように思っておいでになって、せめてこの上の罪は重ねまいと深く思召したのであるのに、またもこうしたことを他動的に繰り返すことになったのを悲しくお思いになって、恨めしいふうでおありになりながら、柔らかな魅力があって、しかも打ち解けておいでにならない最高の貴女の態度が美しく思われる源氏は、やはりだれよりもすぐれた女性である、なぜ一所でも欠点を持っておいでにならないのであろう、それであれば自分の心はこうして死ぬほどにまで 惹 ひかれないで楽であろうと思うと源氏はこの人の存在を自分に知らせた運命さえも恨めしく思われるのである。 源氏の恋の万分の一も告げる時間のあるわけはない。 永久の夜が 欲 ほしいほどであるのに、逢わない時よりも恨めしい別れの時が至った。 世語りに人やつたへん 類 たぐひなく 憂 うき身をさめぬ夢になしても とお言いになった。 宮が 煩悶 はんもんしておいでになるのも道理なことで、恋にくらんだ源氏の目にももったいなく思われた。 源氏のなどは王がかき集めて寝室の外へ持ってきた。 若紫 第三章 紫上の物語 2 若紫の君、源氏の二条院邸に盗み出される物語 第一段 紫の君、六条京極の邸に戻る 秋の末になって、恋する源氏は心細さを人よりも深くしみじみと味わっていた。 ある月夜にある女の所を訪ねる気にやっとなった源氏が出かけようとするとさっと 時雨 しぐれがした。 源氏の行く所は六条の京極辺であったから、御所から出て来たのではやや遠い気がする。 荒れた家の庭の木立ちが 大家 たいけらしく深いその 土塀 どべいの外を通る時に、例の 傍去 そばさらずの惟光が言った。 「これが前の按察使大納言の家でございます。 先日ちょっとこの近くへ来ました時に寄ってみますと、あの尼さんからは、病気に弱ってしまっていまして、何も考えられませんという 挨拶 あいさつがありました」 「気の毒だね。 見舞いに行くのだった。 なぜその時にそう言ってくれなかったのだ。 ちょっと私が訪問に来たがと言ってやれ」 源氏がこう言うので惟光は従者の一人をやった。 この訪問が目的で来たと最初言わせたので、そのあとでまた惟光がはいって行って、 「主人が自身でお見舞いにおいでになりました」 と言った。 大納言家では驚いた。 「困りましたね。 近ごろは以前よりもずっと弱っていらっしゃるから、お逢いにはなれないでしょうが、お断わりするのはもったいないことですから」 などと女房は言って、南向きの縁座敷をきれいにして源氏を迎えたのである。 「見苦しい所でございますが、せめて御厚志のお礼を申し上げませんではと存じまして、 思召 おぼしめしでもございませんでしょうが、こんな 部屋 へやなどにお通しいたしまして」 という 挨拶 あいさつを家の者がした。 そのとおりで、意外な所へ来ているという気が源氏にはした。 「いつも御訪問をしたく思っているのでしたが、私のお願いをとっぴなものか何かのようにこちらではお扱いになるので、きまりが悪かったのです。 それで自然御病気もこんなに進んでいることを知りませんでした」 と源氏が言った。 「私は病気であることが今では普通なようになっております。 しかしもうこの命の終わりに近づきましたおりから、かたじけないお見舞いを受けました喜びを自分で申し上げません失礼をお許しくださいませ。 あの話は今後もお忘れになりませんでしたら、もう少し年のゆきました時にお願いいたします。 一人ぼっちになりますあの子に残る心が、私の参ります道の 障 さわりになることかと思われます」 取り次ぎの人に尼君が言いつけている言葉が隣室であったから、その心細そうな声も絶え絶え聞こえてくるのである。 「失礼なことでございます。 孫がせめてお礼を申し上げる年になっておればよろしいのでございますのに」 とも言う。 源氏は哀れに思って聞いていた。 「今さらそんな 御挨拶 ごあいさつはなさらないでください。 通り一遍な考えでしたなら、風変わりな 酔狂者 すいきょうものと誤解されるのも構わずに、こんな御相談は続けません。 どんな前生の因縁でしょうか、女王さんをちょっとお見かけいたしました時から、女王さんのことをどうしても忘れられないようなことになりましたのも不思議なほどで、どうしてもこの世界だけのことでない、約束事としか思われません」 などと源氏は言って、また、 「自分を理解していただけない点で私は苦しんでおります。 あの小さい方が何か一言お言いになるのを伺えればと思うのですが」 と望んだ。 「それは姫君は何もご存じなしに、もうお 寝 やすみになっていまして」 女房がこんなふうに言っている時に、向こうからこの隣室へ来る足音がして、 「お 祖母 ばあ様、あのお寺にいらっしった源氏の君が来ていらっしゃるのですよ。 なぜ御覧にならないの」 と女王は言った。 女房たちは困ってしまった。 「静かにあそばせよ」 と言っていた。 「でも源氏の君を見たので病気がよくなったと言っていらしたからよ」 自分の覚えているそのことが役に立つ時だと女王は考えている。 源氏はおもしろく思って聞いていたが、女房たちの困りきったふうが気の毒になって、聞かない顔をして、まじめな見舞いの言葉を残して去った。 子供らしい子供らしいというのはほんとうだ、けれども自分はよく教えていける気がすると源氏は思ったのであった。 第三章 紫上の物語 2 若紫の君、源氏の二条院邸に盗み出される物語 第二段 尼君死去し寂寥と孤独の日々 深く霧に曇った空も 艶 えんであって、大地には霜が白かった。 ほんとうの恋の忍び歩きにも適した朝の風景であると思うと、源氏は少し物足りなかった。 近ごろ隠れて通っている人の家が途中にあるのを思い出して、その門をたたかせたが内へは聞こえないらしい。 しかたがなくて供の中から声のいい男を選んで歌わせた。 立ちとまり霧の 籬 まがきの過ぎうくば草の戸ざしに 障 さはりしもせじ と言わせた。 女はすぐに門へはいってしまった。 それきりだれも出て来ないので、帰ってしまうのも冷淡な気がしたが、夜がどんどん明けてきそうで、きまりの悪さに二条の院へ車を進めさせた。 若紫 第三章 紫上の物語 2 若紫の君、源氏の二条院邸に盗み出される物語 第三段 源氏、紫の君を盗み取る 女王は着物にくるまったままでまだ横になっていたのを源氏は無理に起こして、 「私に意地悪をしてはいけませんよ。 薄情な男は決してこんなものじゃありませんよ。 女は気持ちの柔らかなのがいいのですよ」 もうこんなふうに教え始めた。 姫君の顔は少し遠くから見ていた時よりもずっと美しかった。 気に入るような話をしたり、おもしろい絵とか遊び事をする道具とかを東の対へ取りにやるとかして、源氏は女王の 機嫌 きげんを直させるのに骨を折った。 やっと起きて喪服のやや濃い 鼠 ねずみの服の着古して柔らかになったのを着た姫君の顔に 笑 えみが浮かぶようになると、源氏の顔にも自然笑みが上った。 源氏が東の対へ行ったあとで姫君は寝室を出て、木立ちの美しい 築山 つきやまや池のほうなどを 御簾 みすの中からのぞくと、ちょうど霜枯れ時の庭の植え込みが 描 かいた絵のようによくて、平生見ることの少ない黒の正装をした四位や、赤を着た五位の官人がまじりまじりに出はいりしていた。 源氏が言っていたようにほんとうにここはよい家であると女王は思った。 屏風にかかれたおもしろい絵などを見てまわって、女王はたよりない今日の心の慰めにしているらしかった。 源氏は二、三日御所へも出ずにこの人をなつけるのに一所懸命だった。 手本帳に 綴 とじさせるつもりの字や絵をいろいろに書いて見せたりしていた。 皆美しかった。 「知らねどもむさし野と 云 いへばかこたれぬよしやさこそは紫の 故 ゆゑ」という歌の紫の紙に書かれたことによくできた一枚を手に持って姫君はながめていた。 また少し小さい字で、.

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源氏物語の若紫のストーリーを教えて下さい

源氏 物語 北山 の 垣間見 現代 語 訳

「黒=原文」・ 「青=現代語訳」 解説・品詞分解はこちら 問題はこちら 改訂版はこちら 日もいと長きに、つれづれなれば、夕暮れのいたうかすみたるに紛れて、 日もたいそう長いのに、何もすることがなく退屈なので、夕暮れでひどくかすんでいるのに紛れて、 かの小柴垣(こしばがき)のもとに立ち出でたまふ。 例の小柴垣の所へお出かけになる。 人々は帰したまひて、惟光朝臣(これみつあそん)とのぞきたまへば、ただこの西面(にしおもて)にしも、 他のお供の人々はお帰しになって、惟光の朝臣と覗いて御覧になると、すぐ目の前の西向きの部屋に、 持仏すゑたてまつりて、行ふ尼なりけり。 持仏をお据え申し上げて、勤行しているのは尼であった。 簾(すだれ)少し上げて、花奉るめり。 簾を少しまき上げて、花をお供えするようである。 中の柱に寄りゐて、脇息(けふそく)の上に経を置きて、 部屋の中央にある柱に寄りかかって座り、脇息の上にお経を置いて いとなやましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。 ひどくだるそうに(お経を)読んでいる尼君は、普通の身分の人とは思えない。 四十(よそじ)あまりばかりにて、いと白うあてに、やせたれど、つらつきふくらかに、 四十過ぎぐらいで、たいそう色白で上品にやせているが、顔つきはふっくらとして、 まみのほど、髪のうつくしげにそがれたる末も、 目元のようす、髪の毛がきれいに切りそろえられている毛先も 「なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかな」と、あはれに見たまふ。 「かえって長い(髪)よりもこの上なく現代風なものだなあ。 」と、しみじみと(心を動かされて)御覧になる。 清げなる大人二人ばかり、さては童女(わらわべ)ぞ出で入り遊ぶ。 こぎれいな女房が二人ほど、それから召使の少女たちが(光源氏たちがのぞいていた部屋)を出たり入ったりして遊んでいる。 中に十ばかりにやあらむと見えて、白き衣(きぬ)、山吹などのなえたる着て、走り来たる女子(おんなご)、 (その遊んでいる少女たちの)中に十歳ぐらいであろうかと思われて、白い下着に、山吹がさねかなにかの着ならして柔らかくなったのを着て走ってきた女の子、 あまた見えつる子供に似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えて、うつくしげなるかたちなり。 (その子、若紫は、)大勢見えていた他の少女たちとは比べられるはずがないほどに、成長後の美しさが見えて、かわいらしい容貌である。 髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。 髪は扇を広げたようにふさふさとして、顔は(手で)こすってひどく赤くして立っている。 「何事ぞや。 童べと腹立ちたまへるか」とて、尼君の見上げたるに、 「何事ですか。 子供たちと喧嘩でもなさったのですか。 」と言って、尼君が見上げたところ、 少しおぼえたるところあれば、子なめりと見たまふ。 (その見上げた尼君の顔に)少し似ているところがあったので、(その泣いている少女は)尼君の娘なのだろうかと(光源氏は)御覧になる。 「すずめの子を犬君(いぬき)が逃がしつる。 伏籠(ふせご)のうちにこめたりつるものを」とて、いとくちをしと思へり。 「雀の子を犬君が逃がしてしまったの。 伏籠の中に入れておいたのに。 」と言って、たいそう残念がっている。 続きはこちら 問題はこちら 改訂版はこちら lscholar.

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源氏物語『若紫/北山の垣間見』現代語訳(1)(2)

源氏 物語 北山 の 垣間見 現代 語 訳

[訳:蓬田(よもぎた)修一] [原文] 日もいと長きにつれづれなれば、夕暮れのいたうかすみたるに紛れて、 かの小柴垣(こしばがき)のもとに立ち出でたまふ。 人々は帰したまひて、惟光朝臣(これみつのあそん)とのぞきたまへば、 ただこの西面(にしおもて)にしも、持仏据ゑたてまつりて行ふ、尼なりけり。 簾(すだれ)少し上げて、花奉るめり。 中の柱に寄りゐて、脇息(けふそく)の上に経を置きて、 いとなやましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。 四十余(よそぢよ)ばかりにて、いと白うあてに、やせたれど、つらつきふくらかに、 まみのほど、髪のうつくしげにそがれたる末も、 なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかなと、あはれに見たまふ。 [現代語訳] 一日もたいそう長く、することもないので、夕暮れがとても霞んでいるのに紛れて、 (源氏は)例の小柴垣のあたりにお出かけになれれた。 供(とも)の人たちはお帰しになられて、惟光朝臣と(いっしょに垣の内を)おのぞきになると、 (そこにいたのは)すぐそこの西向きの部屋で、仏像をお据え申し上げてお勤めをしている尼であった。 簾(すだれ)を少し巻き上げて、花をお供えしているようだ。 部屋の中央の柱に寄りかかって、脇息の上にお経を置き、 たいへん大儀そうにお経を読んでいた尼君はただ者とは思えない。 四十歳過ぎで、とても色白で上品で、痩せているけれど頬はふっくらとして、 目もとのあたりや、美しく(肩のあたりで)切りそろえられた髪の端というのも、 (源氏は)かえって長い髪よりも格別に今風であるものよと、しみじみとご覧になる。 [原文] 清げなる大人二人ばかり、さては童(わらは)べぞ出で入り遊ぶ。 中に、十ばかりにやあらむと見えて、 白き衣(きぬ)、山吹(やまぶき)などのなえたる着て、走り来たる女子(をんなご)、 あまた見えつる子供に似るべうもあらず、 いみじく生ひ先見えて、うつくしげなるかたちなり。 髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。 [現代語訳] こざっぱりしたふうの女房がふたりほど、そのほかに女の子が出たり入ったりして遊んでいる。 その中に、十歳ばかりであろうかと思われる、 白い下着に、山吹襲(かさね)などの(着慣れて)よれよれになったのを着て走って来た女の子は、 大勢(姿を)見せた子たちとは比べようもなく、大きくなってからは(きっと美しい女性になるだろうと)思われる、かわいらしい顔立ちである。 髪型は扇を広げたようにゆらゆらとして、(泣いた後なので)顔を赤くして立っていた。 [原文] 「何事ぞや。 童べと腹立ちたまへるか」とて、 尼君の見上げたるに、少しおぼえたるところあれば、子なめりと見たまふ。 「すずめの子を犬君(いぬき)が逃がしつる。 伏籠(ふせご)の中(うち)にこめたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。 このゐたる大人、 「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。 いづ方へかまかりぬる。 いとをかしう、やうやうなりつるものを。 からすなどもこそ見つくれ」とて立ちて行く。 髪ゆるるかにいと長く、目安き人なめり。 少納言乳母(せうなごんのめのと)とぞ人言ふめるは、この子の後ろ見なるべし。 [現代語訳] (尼君が)「何事ですか。 子どもたちと争いごとをなさったのですか」と(さきほどのかわいらしい女の子に)言う。 (女の子は)尼君を見あげているが、(その顔立ちは尼君と)少し似ているところがあるので、(尼君の)子どもなどだろうと(源氏は)ご覧になる。 (女の子は)「雀の子を犬君(いぬき=遊び相手の女の子の名前)が逃がしてしまったの。 伏籠(ふせご=竹製のかごのこと)の中に入れておいたのに」と言って、とても残念がっている。 近くに座っていた女房が「不注意者がこんな不始末をして、またいつものように叱られる。 本当によくないことですね。 (雀は)どこへ行ってしまったのでしょう。 本当にだんだん愛らしくなってきたのに。 烏などが見つけてしまうでしょう(そうなったら大変です)」と言って立ち上がり(出て)行く。 (その女房は)髪がゆったりとしていて長く、見た目が感じいいようだ。 少納言乳母(しょうなごんのめのと)と、(回りの)人は(この女房のことを)呼んでいるようだ。 (少納言乳母は)この子の世話役なのであろう。 投稿ナビゲーション.

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