枕草子 すさまじきもの。 枕草子(25) すさまじきもの(二五段)その1

枕草子 すさまじきもの除目に司得ぬ人の家~最後までの内容が...

枕草子 すさまじきもの

除目(ぢもく)に司(つかさ)得ぬ人の家。 今年は必ずと聞きて、はやうありし者どもの、ほかほかなりつる、田舎だちたる所に住む者どもなど、皆集まり来て、出で入る車の轅 ながえ もひまなく見え、もの詣(まう)でする供に、我も我もと参りつかうまつり、物食ひ酒飲み、ののしり合へるに、果つる暁まで門たたく音もせず、あやしうなど、耳立てて聞けば、先追ふ声々などして上達部(かんだちめ)など皆出でたまひぬ。 もの聞きに、宵より寒がりわななきをりける下衆男(げすおとこ)、いともの憂げに歩み来るを見る者どもは、え問ひだにも問はず、外(ほか)より来たる者などぞ、「殿は何にかならせたまひたる」など問ふに、いらへには「何の前司(ぜんじ)にこそは」などぞ、必ずいらふる。 まことに頼みける者は、いと嘆かしと思へり。 つとめてになりて、ひまなくをりつる者ども、一人二人すべり出でて去ぬ。 古き者どもの、さもえ行き離るまじきは、来年の国々、手を折りてうち数へなどして、ゆるぎありきたるも、いとをかしうすさまじげなる。 除目の折に官職を得られなかった人の家は興ざめがする。 今年は必ず任官だとのうわさを聞いて、以前に奉公していた者たちで、散り散りになっている者や田舎めいた所に住む者たちがみんな集まってきて、出入りする牛車の轅もひっきりなしに見え、主人が任官祈願に寺社に参拝するお供にと、我も我もと参上し、物を食い、酒を飲んで騒ぎあっているのに、任官の審議が終わる明け方まで門をたたく音もせず、おかしいなと耳をすませば、人を先払いする声などがして、会議を終えた上達部たちはみな退出なさってしまった。 情報を聞くために宵から出かけて寒さに震えた召使いが、いかにも憂鬱げに歩いてくるのを見た人たちは、声をかけて尋ねることもできず、よその者が「ご主人は何におなりになりましたか」などと聞くと、「前の何処そこの国司ですよ」と決まって答える。 心からあてにしていた者は、ひどく嘆かわしく思っている。 早朝になり、すきまなくいた者たちは、一人二人とこっそり立ち去る。 古参で、そのように立ち去れない者は、来年に国司が交代するはずの国々を指を折って数えたりして、体を揺り動かしながら歩き回っているのも、ひどく妙な姿で興ざめがするものだ。

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枕草子『すさまじきもの(すさまじきもの。昼吠ゆる犬〜)』のわかりやすい現代語訳と内容 / 古文 by 走るメロス

枕草子 すさまじきもの

立ちなさい」と言って、慿坐から数珠を取り戻し、「ああ、本当に(祈祷の)効験がない」とちょっと口に出して、額から頭の方へと手で撫で上げ、あくびを人前をもかまわず、ちょっとして物によりかかって、楽な姿勢になっている。 病気は人の怨念が取り憑いてなるものと考え、その怨念(物の怪)を取り除くために加持祈祷する(これを調伏という)。 的行法。 験者は普通、慿坐を同伴し物の怪をそれに乗り移らせるのだが、その前に仏法のために使われる護法と呼ばれる鬼神を取り憑かせる。 慿坐(よりまし)…神降ろしの時、神霊が乗り移るべき童。 [余説] 「すさまじきもの」には、いかにも自信満々の験者が登場する。 しかし調伏は難航して、長時間に及ぶ祈祷のかいもなく物の怪は姿を現さない。 疲れ果てた験者は、家人の見守る中大あくびをして横になってしまう。 作者はそれを「すさまじ」という。 [疫病大流行] 正歴五年(994)の春から、痘瘡(もがさ・)という疫病大流行(公卿上席者に死亡相次ぐ)のみられた年であったという。 初出任の翌年である。 定子の父、関白(43)死亡。 道隆の死亡原因は疫病ではなく持病(大酒飲みだったそうだ)。 sasurai1.

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『枕草子』すさまじきもの 現代語訳 おもしろい よくわかる 古文

枕草子 すさまじきもの

昼ほゆる犬。 春の 網 あ 代 じろ。 三、四月の紅梅の 衣 きぬ。 牛死にたる牛飼ひ。 興ざめなもの。 昼間に吠える犬。 春の網代。 三、四月の紅梅 襲 がさね の衣。 牛が死んでしまった牛飼い。 児 ちご 亡くなりたる 産 うぶ 屋 や。 人おこさぬ 炭 す 櫃 びつ 、 地 じ 火 か 炉 ろ。 博 はか 士 せ のうち続き 女 おんな 子 ご 産 む ませたる。 赤ん坊が死んでしまった産屋。 火をおこしていない角火鉢や、いろり。 博士(=跡継ぎが男に限られている教官)が連続して女の子を産ませた場合。 方 かた 違 たが へに行きたるに、あるじせぬ所。 まいて 節 せち 分 ぶん などはいとすさまじ。 方違えに行ったのに、もてなしをしない所。 まして節分(の方違えなどの時に、もてなさないの)は、とても興ざめだ。 人の国よりおこせたる文の、物なき。 地方からよこした手紙で、贈り物を添えていないもの。 京のをもさこそ思ふらめ。 されどそれはゆかしきことどもをも、書き集め、 京からの(手紙の場合)もそう思っているだろう。 しかしそれは(地方の人が)知りたそうなことなどをも書き集め、 世にあることなどをも聞けば、いとよし。 世の中の出来事などをも知ることができるので、(京からの手紙の場合は)贈り物がなくてもすばらしいのだ。 人のもとにわざと清げに書きて 遣 や り つる文の、 人のところに特別にきちんと書いて送った手紙で、 返り言今はもて 来 き ぬらむかし、あやしう遅き、と待つほどに、 きっと返事をもう持ってきているだろうよ、妙に遅いことだ、と待つうちに、 ありつる文、立て文をも結びたるをも、いと汚げにとりなし、 先程の手紙を、それが(正式な)立て文でも(略式の)結び文にしろ、たいそう汚げに扱い、 ふくだめて、上に引きたりつる墨など消えて、 けばだたせ、(封の印である)上に引いていた墨なども消えて、 「おはしまさざりけり。 」もしは、「御物忌みとて取り入れず。 」 「いらっしゃいませんでした。 」もしくは、「御物忌みだと言って受け取らない。 」 と言ひて持て帰りたる、いとわびしく、すさまじ。 と言って持ち帰ったのは、とても情けなく興ざめである。 ここでは護法童子のこと。 蝉 せみ の声しぼり出だして読み 居 ゐ たれど、 蝉のような声をしぼり出して(お経を)読んでいたが、 いささかさりげもなく、 護 ご 法 ほう もつかねば、 少しも(物の怪が)退散しそうな気配もなく、護法童子も(よりましに)つかないので、 集り居念じたるに、男も女もあやしと思ふに、時のかはるまで読み困じて、 (家の者たちが)集まり座ってお祈りしていたが、男も女も妙だなと思っていると、(修験者は)時が変わるまで読み疲れて、 「さらにつかず。 立ちね」とて、数珠取り返して、 「まったく(護法童子がよりましに)つかない。 立ちなさい。 」と言って、数珠を取り返して、 「あな、いと 験 げん なしや」とうち言ひて、 額 ぬか より 上 かみ ざまにさくり上げ、あくびおのれよりうちして、寄り臥しぬる。 「ああ、まったく効き目がない」とつぶやいて、額から上の方に髪をかき上げ、(こともあろうに)あくびを自分から先にして、寄りかかって寝てしまったこと(は興ざめだ)。 いみじうねぶたしと思ふに、いとしもおぼえぬ人の、 ひどく眠たいと思っている時に、それほどにも思っていない人が、 押し起こして、せめてもの言ふこそ、いみじうすさまじけれ。 揺り起こして、無理矢理に話しかけてくるのは、非常に興ざめだ。 (3) 除 じ 目 もく に 司 つかさ 得ぬ人の家。 今年は必ずと聞きて、はやうありし者どもの、ほかほかなりつる、 除目(=官吏任命の儀式)に官職を得られなかった人の家(は興ざめである)。 今年は必ず(任官される)と聞いて、以前に仕えていた者たちで、離れ離れになっていた者たちや、 田舎だちたる所に住む者どもなど、皆集まり来て、出で入る車の 轅 ながえ も 隙 ひま なく見え、 田舎じみた所に住む者たちが、みな集まってきて、出入りする牛車の轅も絶え間なく見え、 もの 詣 もう でする供に、我も我もと参りつかうまつり、物食ひ酒飲み、ののしり合へるに、 (主人が任官祈願のために)寺社に参拝するお供に、我も我もと参上し、物を食い酒を飲んで、騒ぎ合っていたが、 果つる 暁 あかつき まで門たたく音もせず、あやしうなど、 耳立てて聞けば、 (任官式の)終わる明け方まで門をたたく音もせず、妙だなと耳をすまして聞くと、 先追ふ声々などして 上 かん 達 だち 部 め など皆出で 給 たま ひぬ。 (貴人の通行のための)先払いする声などがして、(任官式を終えた)上達部たちはみな退出なさってしまった。 もの聞きに、 宵 よい より寒がりわななきをりける 下 げ 衆 す 男 おとこ 、 様子を聞きに、宵から(出かけて)寒がり震えていた使用人の男が、 いともの憂げに歩み来るを見る者どもは、え問ひだにも問はず、 ひどく憂鬱そうに歩いてくるのを見る者たちは、尋ねることさえもできず、 外より来たる者などぞ、「殿は何にかならせ給ひたる。 」など問ふに、 よそから来ている者などが、「ご主人は何におなりになりましたか。 」などと尋ねると、 いらへには「何の 前 ぜん 司 じ にこそは。 」などぞ、必ずいらふる。 返事には「どこそこの国の前の国司です。 」などと、必ず答える。 まことに頼みける者は、いと嘆かしと思へり。 本当に(主人の任官を)あてにしていた者は、たいそう嘆かわしいと思っている。 つとめてになりて、ひまなくをりつる者ども、一人二人すべり出でて去ぬ。 早朝になり、すき間なくいた者たちは、一人二人とこっそり抜け出して帰って行く。 古き者どもの、さもえ行き離るまじきは、来年の国々、手を折りてうち数へなどして、 古くから仕えている者たちで、そのように離れて行くことができそうもない者たちは、来年(国司が交代する予定)の国々を、指を折って数えたりなどして、 揺るぎありきたるも、いとをかしうすさまじげなる。 体を揺すって歩き回っているのも、とても 滑稽 こっけい で興ざめな感じである。

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